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新日本法規財団 奨励賞 受賞論文
『会計学と原価計算の革新を目指して』
(PDF 32枚)
執筆者(受賞者)公認会計士 高田 直芳

日本公認会計士協会 研究大会 発表論文
『管理会計と原価計算の革新を目指して』
(PDF 12枚)
執筆者(発表者)公認会計士 高田 直芳

パワーポイント資料は、こちら。

zoom RSS 公認会計士高田直芳:上場企業が正しい決算書を作らない理由

<<   作成日時 : 2015/04/04 01:00   >>

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上場企業が「正しい決算書」を作らない理由


今回の話は、『大不況に克つためのサバイバル経営戦略 第27回 大企業が“正しい決算書”を作らない理由』を、現時点の法令や制度に合わせて加筆修正したものです。

さて、『裸の王様』という童話があります。
いまの小学生が、この話をどれだけ知っているか、というリサーチを行なったことがないので、とりあえずは誰もが幼少の頃に学んだ話、ということにします。

「そんな話など、ガッコーでは習わなかった」という反論はあり得ません。
数学にしろ歴史にしろ、学校で習ったか習わなかったかではなく、自ら努力して学んだか学ばなかったか、にすぎない問題です。


『裸の王様』からは、示唆に富む教訓を数多く得ることができます。
今回は、上場企業にまつわるコスト管理の話題を提供する前に、次の4つの教訓を確認しておきます。
あくまで私見です。

  • 1つめは、多数派の意見が「通説」にまで高められると、人は疑う姿勢をなくしてしまうこと。

  • 2つめは「あれ? どこかおかしいぞ」と疑問に思うことがあっても、それを理論的に追求するのが困難な場合、人は様子見を決め込むこと。

  • 3つめは、論破する自信があっても、批判対象が「権威」にまみれて強固なものであるとき、人は自らの道理を引っ込めてしまうこと。

  • 4つめは、無知は恐ろしい結論を導き出すことがあるので、無知のまま放置しておくほうが、本人も周りも幸せな場合があること。


かくして「裸の王様」が、大通りを闊歩することになります。

【関連ブログ】安価な原価計算システムを導入する方法


私がいままでに手がけてきた書籍やコラムでは、数多くの上場企業を取り上げてきました。
その経験から述べるならば、上場企業のすべてで、いわゆる「ドンブリ原価計算」が行なわれているであろう、と断言することができます。

「そんなはずはない。わが社は、厳格なコスト管理を行なっているぞ」と自負するのは、次の受賞論文を読んでからにしていただくとしましょう。
新日本法規財団 奨励賞 受賞論文
『会計学と原価計算の革新を目指して』(PDF 32枚)
執筆者(受賞者)公認会計士 高田直芳

国立国会図書館所蔵の論稿集は、こちら。
日本公認会計士協会 研究大会 発表論文
『管理会計と原価計算の革新を目指して』(PDF 12枚)
執筆者(発表者)公認会計士 高田直芳

上記の受賞論文では、上場企業のすべてで「どんぶり計算」が行なわれていることを、高校の数学レベル(数VC)で証明しています。

「指数関数や自然対数を微積分する方法など、ガッコーでは習わなかった」という反論はあり得ません。
高校を卒業したのであれば、誰もが学んできた内容です。


上記の受賞論文に登場する「管理会計としてのタカダ式操業度分析」や、「原価計算としてのタカダ式変動予算」について、世に初めて問うたころは、多くの人からそれこそ鼻で笑われました。
「個人の見解にすぎないものを偉そうに語るな」と、非難されたりもしました。

確かに、論文で「賞」の一つも獲れぬ者が、管理会計や原価計算を偉そうに語るものではありません。
悔しい思いをしながら、捲土重来、論文受賞という形で結実させるに至りました。

今回の奨励賞の選考委員の書籍を以下に掲げます。
相続税財産評価の理論と実践

品川 芳宣
(筑波大学名誉教授・弁護士)
緑川 正博
(公認会計士・税理士)
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2015年3月に開催された表彰式(帝国ホテル東京)では、その2名の先生方と食事をともにさせていただきました。


さて、以下は上場企業の経営幹部の方々に向けての話です。

まずは、「ドンブリ原価計算」の意義を整理しておきます。
これは、カツ丼や親子丼のように、1杯のドンブリに雑多な具を乗せるところに由来します。
実際にどのように行なうかは、商店街にある八百屋の店頭を思い浮かべてください。

八百屋では、ヒモで括りつけたザルを天井からぶら下げて、買い物客から受け取ったおカネを、そのザルに放り込んでいきます。
野菜用のザルや、果物用のザルを分けて、天井からぶら下げておくのがポイント。
足許に小さなバケツを用意しておくのでも構いません。

閉店後、各所に配置したザルやバケツに貯まったおカネを集計していけば、野菜別・果物別などのセグメント別損益計算書ができあがります。
これに仕入値を付き合わせていけば「ドンブリ原価計算」が完成します。

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「どんぶり原価計算」の知識を仕入れたところで、自社で作成している決算書を用意してください。
製造業に係る典型的な様式を、〔図表 1〕に示します。
金額単位は省略します。
画像

〔図表 1〕の様式は、財務諸表等規則75条1項に基づいています。
損益計算書の期末製品棚卸高と、貸借対照表の製品勘定が、4,000で一致していることを確認してください。

〔図表 1〕は見慣れた様式であり、製造業を中心として、あらゆる企業で作成されています。
実は、そこに落とし穴があります。

〔図表 1〕は「実際価格×実際数量=実際原価」という会計処理を行なっている企業が作成する様式であり、予定価格(製造間接費の予定配賦を含みます)を採用している企業には当てはまりません。

〔図表 1〕はあくまで「実際原価に基づく決算書」の様式です。


「そんなはずはない。当社はコスト管理に予定価格を採用して、〔図表 1〕を作成しているぞ」と主張する経営幹部もいることでしょう。
それは落とし穴に嵌(はま)り込んだ者が、穴の底から騒いでいるようなものです。

「予定価格×実際数量=予定原価」を採用していると主張するのであれば、次に示す〔図表 2〕の様式に基づく必要があります。
画像

〔図表 2〕の特徴は、赤く染めた「4. 原価差額400」にあります。

これが「コスト管理に予定原価を採用しているぞ」と主張する企業が作成すべき「予定原価に基づく決算書」の様式です。

根拠は、財務諸表等規則ガイドライン75−2−1に記述されています。


日頃から「実際価格×実際数量=実際原価」の会計処理を行なっている企業が、〔図表 1〕の様式で作成しているのであれば、至極まっとうな決算書です。

しかし、上場企業が最初から、〔図表 1〕の決算書でコスト管理を行なっているようでは、もの笑いの種です。
期中では「予定価格×実際数量=予定原価」の会計処理を行なっているはずですから。

ところが、原価管理部門から経営幹部へ決算書が提出される段階になって、〔図表 2〕ではなく、〔図表 1〕にすり替えられているケースが多いと推測しています。
1年かけて準備万端整えたコース料理を、経営幹部の口へ運ぶ直前に、「えいやっ!」とばかりに、ドンブリに盛ってしまったようなものです。

どうして、このような守備一貫性を欠く会計処理が行なわれるのでしょうか。

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原因の1つは、もし、忠実に〔図表 2〕に基づいた決算書を作成しようとするならば、「〔図表 2〕4. 原価差額」に計上される金額が、異常に巨額なものになるから、と推定されます。

おそらく、法人税基本通達5−3−3に定める「1%ルール」を大きく上回るものとなるはず。
これでは原価管理部門のメンツ丸つぶれです。


2つめの原因は、ニッポン企業の大多数が採用している「工数」にあります。
年間予算額に「延べ人数」や「延べ日数」の調整を行なう、あの「根拠不明で大味な仕組み」です。

その結果、期中では予定価格を採用しておきながら、経営幹部へ報告する段階になって、原価管理部門は多額の原価差額に恐れをなし、〔図表 1〕にあるようなドンブリものに調理し直して、「へい、一丁上がり!」とする決算書を作成してしまうのです。

そのような決算書で「コスト削減に努力しました」「固定費削減に成功しました」といわれても、ドンブリものを食した後に、ヘソで沸かした茶を飲まされる気分です。


〔図表1〕の決算書が経営幹部に提出される3つめの原因は、経営幹部のほとんどが、決算書について、入門レベルの知識しか持っていないからです。

原価管理部門は「この経営幹部は与(くみ)しやすし」と考えていることでしょう。
要するに、なめられているのです。

国際会計基準(IFRS)や内部統制などへの取り組みも結構なことですが、足許にもっと大きな問題が転がっていることを忘れずに。

【関連ブログ】決算短信の「業績予想」に騙されてはいけない


本来、原価差額が多額になる場合は、〔図表 3〕の決算書になるはずです。
画像

〔図表 3〕の特徴は、損益計算書の期末製品棚卸高4,000と、貸借対照表の製品4,050が一致しない点にあります。

一致しないのは、原価差額が多額となった場合に、「1%ルール」を当てはめたときの、「正しい会計処理」の結果です(企業会計審議会『原価計算基準』四七参照)。

〔図表 2〕は、原価差額が「1%ルール」内に収まった場合の、これまた「正しい会計処理」の成果です。

1%内外という違いはあるにせよ、〔図表 2〕と〔図表 3〕はどちらも「予定原価に基づく決算書」である点に変わりはありません。
これが上場企業として採用すべき「正しい決算書の姿」です。

「どうして〔図表3〕のようになるのだ?」と首を傾げているようでは、管理会計や原価計算について、入門レベルの知識もないことになります。
そのようなことで、まともなコスト管理ができるわけがありません。


ビジネスは、結果が勝負。
決算書はその典型であり、そこに掲載された数値によってのみ評価されます。

〔図表 2〕の決算書を社内で作成している企業は「ほほぉ、年間を通して発生した原価差額が1%に収まったのか。それはすごいな」と感心されます。

〔図表 3〕の決算書を社内で作成している企業は「原価差額が1%を超えてしまったのだな。コスト管理は大丈夫だったのだろうか」と疑われます。

特に〔図表3〕の決算書では、コスト管理の巧拙を疑われるために、大多数の上場企業は〔図表 1〕の決算書に戻るのかもしれません。
これは「コスト管理に自信がない証拠だな」と糾弾されるべき内容です。


もちろん、決算書を作成するまでのプロセスも大事なことは承知しています。
しかし、それは、経営幹部よりも上の、取締役会では評価されません。

現場から提出された決算書が、〔図表 1〕の様式であるならば、その企業では「ドンブリ原価計算」が行なわれているのだ、と取締役会では判断せざるを得ないことになります。

そもそもの話として、多額の原価差額が発生する最大の原因は、企業が設定する「工数」に、明確な根拠がないからです。

ただし、それを指摘しては可哀想な面もあります。
工数の根拠となる「年間予算額/延べ人数/延べ日数」などを、向こう1年先まで見積もるのは、神ワザだからです。

そうはいっても、実務の範となるべき現在の原価計算論の罪も大きいものがあります。
期待実際操業度(または短期予定操業度)などといった、実務では絶対に算定不可能な神ワザ的概念を、漫然と書き並べた書物が相変わらず多いのには辟易します。

自ら現場に立ち入ることをせず、システム制作のノウハウもなく、理論的に正しいかどうかしか議論しない「空想的原価計算論」は、実務では不要です。

実務で役立つ理論やシステムは、如何にあるべきかを考えるべきでしょう。


管理会計や原価計算を少しでもかじったことのある人は、「活動基準原価計算(ABC)や、活動基準原価管理(ABM)の有用性を自慢気に語ります。
そうした人たちは、まず間違いなく「活動基準原価計算ありき」の発想です。

活動基準原価計算に取り組む動機を問いただしてみると「書店でたくさんの関連書籍が並んでいたから」が圧倒的。
活動基準原価計算以外の原価計算はすべて時代遅れだ、と思い込んでいる人もいます。

この会社は一体、コスト管理で何を目指しているのだろうなぁ、と問うてみたいところ。

しかし、「裸の王様」は、コストドライバーなどの専門用語に妙に習熟しているケースが多いので、面食らってしまいます。
間接費を減らすどころか増やす方向に話を持っていくと、逆に喜ぶのではないか、などと皮肉ってみたくなります。

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童話をよく読むと、王様を裸で歩かせた仕立屋だけが、一方的に悪いというわけではないようです。

目的と手段を履き違えた王様や、媚びへつらう宮廷官吏にも問題があります。
これが、筆者が学んだ第5の教訓。

そして、気をつけないと、公認会計士という肩書きを持った仕立屋自身が「裸の王様」に転じる可能性があります。
それが筆者自戒の教訓です。

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〔文責 高田直芳 税理士 公認会計士〕

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